金属加工の材料で「磨き材」と「6F材」という呼び方を聞いたことはありますか? 金属加工に関する仕事に携わっていると、言葉を聞く機会は多いと思いますが、その違いや特徴については意外と知らない人も多いかもしれません。
そこで今回は「磨き材」と「6F材」について、金属加工歴42年、加工メーカーを創業して35年という金属加工のプロ、有限会社榊原工機(@愛知県春日井市)の榊原社長に聞いてきました。
「磨き材」と「6F材」の基本と違い
では早速、「磨き材」「6F材」はどんな材料でどんな違いがあるのか、見ていきましょう。
磨き材は「フラットバー」と呼ばれることもあり、材料となる鋼材を「冷間圧延」という方法でトコロテンのように引き抜いて作る材料です。トコロテンの出口の寸法は、例えば6x9mm、8x12mmなど規格で決まっており、1辺のサイズによって寸法公差も決まっています。鋼材メーカーでは3mや5mなどの定尺で作られており、榊原工機のような加工メーカーは鋼材屋さんに長さを指定して発注し、定尺材から切り出して納品してもらっています。
6F材は、6面を加工済みで6面の精度が出ている材料です。榊原工機に入ってくる6F材は、±0.025mmの精度で届きます。昔は「黒皮材」という精度を出していない材料を買って社内で6面加工していたのですが、今は材料屋さんが6面加工機という専用の機械を持っているので、社内加工よりも買った方が安くなっています。
磨き材のメリットとデメリット
磨き材のメリットは、材料費が割安なことです。4面の精度が出た状態で材料が入ってくるので、規格の寸法を活かせる設計をすれば、材料費と加工費を抑えられます。
ベテランの設計者さんなどは、ブロックなどを設計する際に敢えて磨き材のラインアップから寸法を決めて、材料に「磨き材」と指定することで、材料費と加工費を同時に抑える設計をされることがあります。図面からその意図が読み取れると「さすがベテラン。わかってるね~」と声をかけたくなります(笑)。
ただし、磨き材にはデメリットもあるので注意が必要です。いちばんのデメリットは「加工によっては反りやすい」ということ。例えば「8x16mm、L=300の磨き材から、1mmをフライスで削って8x15mmにする」というような加工をすると、磨き材は反ります。
ですので仕上がり寸法8x15mmが必要なら、寸法指定した6F材を買う方が断然おすすめです。
しかし「磨き材と書いておけば材料が安いだろう」と思い込んでいる設計者もいるようで、図面から読み取るしかない加工メーカーとしては悩みどころです。
ということで、磨き材が向いているのはこんな加工です。
・磨き鋼材のラインアップの寸法を活かした設計
・長い棒に穴あけなど、長辺を切削しない加工
・加工後の組立ではネジで締めるから、磨き材で反ってもいいから材料費を抑えたい場合
6F材のメリット・デメリット
続いて6F材について見ていきましょう。6F材は直方体の6面全てにフライス加工が施され、材料が手元に届いた時点で既に高い寸法・直角・平面度などの精度が出ています。そのため、6面の精度を活かして切削する加工では、加工コストを抑制できるメリットがあります。また、磨き材の規格にない寸法の場合にも6F材のメリットは大きいですね。
一方でデメリットとしては、6面をあらかじめ加工するため若干割高という点があります。
このことから、6F材に向いている加工は次のような感じです。
・既に6面で精度が出ている状態から削る加工
・磨き材の規格にない寸法
・6面全てで精度の高い公差が指定されている場合
磨き材と6F材のホントのトコロ
榊原社長によると「最近やたら『磨き材』と書いてある図面を見る機会が増えた」とのこと。ただ、加工メーカーでは図面を書いた設計者と直接打合せをすることは少ないため、設計者がどのような意図で「磨き材」と書いたのか…… いつも想像を巡らせるといいます。
設計者が図面に「磨き材」と記載する意図としては、次のようなケースが考えられます。
・「磨き材なら安い」と思っているので、安く上げようと選定した
・引用した参考図面に「磨き材」と書いてあったから前例を踏襲した
・磨き材を削ると反ることは理解しているが、この部品は締結するので反りが出ても気にならないため、安く上げたいから磨き材を選定した など……
しかし前述の通り、磨き材は規格の寸法が決まっていて、反りやすいという特徴もあるので、「何でもかんでも磨き材なら安上がり」というわけにはいきません。
先日も榊原工機に持ち込まれた図面で「磨き材から1面を切削する」「磨き材を使ってワイヤーカットで加工」というのがありましたが、「絶対反るから断りましょう」とお断りになってしまったケースがありました。
これが「反ってもいいから磨き材で」なのか「知らずに書いてて、ホントは反ると困る」のか、設計者に直接聞けない加工者の立場としては悩みどころです。質問しても答えが返ってこないような場合には、念のため6F材で見積することもあるそうです。
なお、加工後に黒染すると磨き材か6F材かがわかりにくくなるそうなので、迷ったら榊原社長に相談してみてください。
まとめ:「磨き材」と「6F材」
今回は、切削加工の材料「磨き材」と「6F材」の違いと特徴、向いている加工について教えていただきました。榊原社長の説明、プロなのに(プロだから)わかりやすかったですね。
榊原社長いわく「皆当たり前に知っていると思っていたんだけど、どうも最近知らずに部品手配している人が多いみたい」というこのテーマ、理解したうえで製図や部品手配を行うと、コストを抑えつつ良い部品を効率的に入手できそうです。
愛知県春日井市にある榊原工機では、愛知県・名古屋エリアで手のひらサイズの旋盤加工、フライス加工、マシニング加工、ワイヤー加工などに対応しています。愛知県・名古屋周辺だけでなく、全国への発送にも対応しますので、機敏に動ける加工工場をお探しの方はぜひ榊原工機にご相談ください。
(聞き手=ものづくりライター 新開潤子 https://office-kiitos.biz/)
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