提案・試作事例

【プロに聞きました】中国調達のリアル──現場から見るトラブル事例と対応策

製造業で調達を担当する皆さんは、常に頭の中に「なるべく安く調達したい」という意識があることと思います。そう考えていくと「中国調達」という選択肢を検討したことがある方、実際に中国から調達している方も多いのではないでしょうか。

愛知県春日井市にある部品加工メーカー・榊原工機では、最近「中国調達品の修正依頼」が増えているそうです。そこで、榊原社長に「中国調達のリアル」というテーマで、現場から見える実態や課題、そして対応策などについて伺いました。

有限会社榊原工機|小物部品の少量~中量生産に特化|ガレージブランド・個人ブランド”の試作開発も

中国加工品の修正依頼が増えた理由

「実は、以前は我々のような町工場に来ていた加工の仕事が、中国に流れているのはわかっていました」と話し始めた榊原社長。「そこで『中国に加工を出している人たちが、困っていることは何だろう……』と考えてみたところ、『修正が必要なケースが多いだろう』と思い至りました。だから以前からやっていた修正対応についてSNSで発信し始めたことで、ご依頼が急増しているのだと思います」

修正に至るトラブルは組み付け段階で発覚することが多く、発覚した時点で慌てて「超特急の修正」の依頼になるとのこと。午前中に現場で外したプレートを、商社の営業マンがお昼に持ってきてすぐに修正に取りかかり、翌朝に納品というスピード感になることも多いそうです。

中国調達品によくあるトラブル事例

1. 焼入れのトラブル

「高周波焼入れ」という指示があっても、実際には「ズブ焼き」や「真空焼き」で処理されている場合があるそうです。

「高周波焼入れは表面だけを硬くする処理なんですが、ズブ焼きや真空焼きは全体が硬くなってしまうんです。加工に詳しくない人は『固いなら良いじゃないか』と思うかもしれませんが、全体が硬くなると衝撃に弱くなるので、落としたときに折れたり、機械に組み付ける時に割れることもあります」(榊原社長、以下同)

2. メッキのトラブル

図面で指定された「ユニクロメッキ」がトラブルの原因になるケースもあります。

「ユニクロメッキはメッキが厚く乗りやすい特徴があり、例えば直径10mmの穴にメッキが乗って内径が9.95mmや9.9mmになってしまうことがあります。すると本来入るはずのピンが入らなったりして、修正依頼が持ち込まれます。当社では穴のサイズを調整して、もう一度メッキすることになります」

中国の加工屋さんでも気が利くところは、「ユニクロメッキ」という指示があっても仕上がり寸法を考慮して、より膜厚の薄いメッキに自主的に変更して納めてくれるようなケースもあるとのこと。ただ、それも「図面の指示と実際の処理が違う」ことになり、後々トラブルになりやすいということでした。

3. 寸法の間違い

寸法違いも頻繁に起こるトラブルだそうです。

「寸法が大きすぎる場合は削って直すこともできますが、小さい場合は再製作するしかありません。穴の場合には、小さい穴を大きくすることはできますが、大きい穴を小さくすることはできませんので、こちらも基本的には再製作になりますね」

4.材料の自主変更

そして材料の間違いも少なくないようです。

「例えばSS400とS45C/S55Cはどちらも鉄ですが、SS400は溶接向きですが、S45CやS50Cは割れたり着かなかったりするため溶接には向きません。一方でS45CやS50Cには削りやすいという特徴があるので、中国の加工会社が加工しやすい材料に変更してしまうことがあるんです」

材料が違うのは見た目ではわかりにくいのですが、組付け時や製品の使用時に特性が違うことに気付き、大急ぎで再製作というケースもよくある、ということでした。

5.税関トラブル

輸入品が日本に入るときには必ず税関の手続きがありますが、希に税関の検査対象になることがあります。そうなると数日~1週間程度、日本にあるのに製品を引き取れなくなる事例が実際に発生しています。

「普段は小さなものなら航空便を使って2〜3日で入ってくることもあるので、ギリギリの納期で設定したところ、税関でストップ……というのもあるあるです。納期に間に合わないということで、当社で一から製作し直すこともよくありますよ」

実際の修正依頼事例① ピンの外周を削って!


H7公差の穴にはまらなかったピンの外径を5/100くらい細くしてほしい、という修正依頼。焼入れが入っていたが、現物を削って対応した

実際の修正依頼事例② 斜線部をカットして調整


削りが足りなかったということで「斜線部をカットして調整」という追加工図

修正と再製作、どちらが良いのか

さて、前述のようなトラブルが発生した場合、修正するか再製作するか、どう判断すれば良いのでしょうか。榊原社長によると、
「工程が多い複雑な製品は、修正できるなら修正した方が良いと思います。一方、簡単な構造のものは再製作した方が安いことも多い」ということです。

そのほか、焼入れや研磨、メッキなどの表面処理が入っている場合には、納期との兼ね合いで修正した方がよいケースも多いとのこと。ただし、大きい穴を小さくするなど、物理的に修正が難しい場合は再製作になります。

「『どうしても修正で何とかして』というご依頼の場合、溶接で穴を埋めて再加工する方法もありますが、溶接の跡が残ります。お客様によって『それでもいいから早く欲しい』という方と、『ちゃんとしたものが欲しい』という方がいますので、ケースバイケースで対応しています」ということでした。

中国調達のメリットも考える

さて、「中国調達=安い」というイメージがありますが、実際のところはどうなのでしょうか。メリットを具体的に見ていきましょう。

1. コストメリットはまだある

「以前は日本価格の3〜4割という状況でしたが、最近では日本の7〜8割程度の価格帯が一般的です。特に単品などの少量生産では、円安の影響もあって昔ほどの差はなくなっています」と榊原社長。それでも一定のコストメリットは残っているようです。
「商社さんが当社に発注せずに中国に出している状況を見ると、やはり当社より安いのは事実だと思います。特に量産品においてはコスト削減効果を実感できるでしょう」

2. 工程集約によるスピード感

「以前は日本価格の3〜4割という状況でしたが、最近では日本の7〜8割程度の価格帯が一般的です。特に単品などの少量生産では、円安の影響もあって昔ほどの差はなくなっています」と榊原社長。それでも一定のコストメリットは残っているようです。

「商社さんが当社に発注せずに中国に出している状況を見ると、やはり当社より安いのは事実だと思います。特に量産品においてはコスト削減効果を実感できるでしょう」

3. 高度な技術力を持つ会社も多い

中国の加工会社はピンキリですが、高い技術力を持つ会社も数多く存在します。

「当社が取引している中国の会社は、技術力が高く、下手をすると当社よりうまいんです。全て最新設備でやっていますからね」と榊原社長。
特に近年は品質管理の意識も高まっており、日本企業の厳しい要求に応えられる会社も増えています。

「きちんとした中国の会社と取引できれば付き合う価値はあると思います。中には図面に描かれていない要求事項を理解し、機能面などを考慮した提案ができる会社もあります」

ただし、そうした優良企業を見つけることが重要で、そこに至るまでにはやはり苦労があるようです。
「当社に来る修正依頼は、残念ながら適当な加工をされて困ったというケースが多いです。優良な会社を見つけるには、直接訪問して品質管理体制を確認するか、少量発注からスタートするなどして、信頼関係を築いていくことが大切かもしれませんね」

中国調達を成功させるポイントは、日本でバックアップ先を持つこと

中国調達には価格メリットがありますが、同時にリスクも伴います。榊原社長のアドバイスをまとめると次のようになります。

「安さだけを求めて中国に出すのではなく、安いなりのリスクがあることを承知で取引するなら、十分メリットがあると思います。きちんと納期を守って良い品質の製品を納めてくれる会社もありますので、そういった会社と付き合えるのであれば、それに越したことはありません」

また、中国調達のバックアップとして、修正対応ができる日本の加工会社との関係性も大切だと言います。

「当社のような会社は『困ったときに頼りになる存在』として認識していただき、長いお付き合いができれば幸いです。材料や加工、表面処理などの特性まで理解していますので、何かあったときはすぐにフォローできるのが強みです」

製造業の調達では、コストだけでなく品質や納期も含めたトータルでの最適化が求められます。中国調達も戦略的に活用し、リスクヘッジを考えた体制づくりが大切ですね。

中国調達品の修正、ご相談ください

有限会社榊原工機|小物部品の少量~中量生産に特化|ガレージブランド・個人ブランド”の試作開発も

榊原工機は、「特急の修正依頼」「組み付けトラブル」「図面通りに加工できない」などの課題に、長年の経験と技術力とスピードで対応している会社です。愛知県春日井市を拠点に、名古屋エリア、東海地方だけでなく、全国からの切削加工のご依頼をお受けしています。手のひらサイズの旋盤加工、フライス加工、マシニング加工などに対応し、単品・小ロットの加工も承っております。

製造現場のお悩みにお応えするため、オンラインで気軽に相談できる「金属加工相談室」を開設しました。図面や写真を見ながら、榊原社長に直接ご相談いただけます。加工可否や納期、価格などについて、お気軽にお問い合わせください。

(聞き手=ものづくりライター 新開潤子  https://office-kiitos.biz/)

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